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■女王との初恋
小学校3,4年の早春だったと思う。遊び仲間の1人UMと積んであった堆肥を掘り起こして摘まみ出したシマミミズを何匹も集めて、近くの川へ桜ウグイを釣りに行った。雪融けの流れを泳ぐウグイは徐々に桜色に変わり彼の祖父の好物だったし、野山が新緑に萌え出すまでは河口のハゼ釣りや溜池のフナ釣りなどで時間を稼ぐのが決まりだった。
((蛇足:シマミミズと云えば、開高健氏のエッセイ「私の釣魚大全」から 「まずミミズを釣ること」を思い出します。氏は最後に次のように書かれているのが印象的です。『魚を釣るまえにミミズを釣らねばならない時代だけれど、 きっと古い個性はいまでも谷や磯にあるにちがいない。』身にしみます。))
サクラウグイに混じって、薄暗色したそら豆やえんどう豆の形をした模様を幾つも不規則に並べた魅惑的な魚が幾匹も掛かった。気にはなっていたが名前を知らないまま数年たち、これをパーマークと呼び、清流の女王「やまめ」と呼ぶと知るのは迂闊にも中学に入ってからだったと思う。その容姿に魅せられて古里のあちこちの本流・支流へ入った。 その当時はお粗末にもキャッチ&リリースの心得もなく、産卵期や孵化期の禁漁のことも蚊帳の外であった。いま振り返ると赤面の限り無謀な釣行だった。
((備考:淡水魚の禁漁期のことは県条例= 県内水面漁業調整規則に定められているが昭和44年の公布である。だから、ひょっとして禁漁が蚊帳の外であった時期 に当り、法律違反でなかったのかも知れない。破廉恥な言い訳!))
暫くしてやまめはどの川からも姿を消したことに気が付いた。川エビやゴリやゲンゴロウ等が全滅してから間もなくだったろう。 後悔先に立たず……諸行無常の響きである。その後こんなことを憂慮した数人の同志とやまめ稚魚の放流を始め、現在に至っている。
■普通の辞書では‥
やまめは、学名を Oncorhynchus masou といい、サケ目サケ科に属する。ヤマメ、山女、山魚女(山女魚もあるがどちらかが誤記)と書き、やまべ、やも、あめのうお、ひらめ、たなびら、えのは等の呼名があるようだ。尚、あまご (甘子、あめご)とは異にする。
小学館の国語大辞典には、やまめは 『サクラマスの河川陸封型をいう。全長約四〇センチメートルに達する。 体形はマスに似るが体側に暗色の 小判状斑紋が並び、小黒点が散在する。主として東日本の渓流にすみ、釣りの対象魚。食用とし、美味。なお、近似種に、体側に赤色点の現れる甘子(あまご) がいる。』 と簡単に説明されている。
やまめが、あの大きなサクラマスと同じだとは、きっと教えられるまで気が付かないでしょう。また山女つまり山の女とするのは、奥山渓流に遊ぶ様がまさに女体のようにしなやかであるからと主張する輩もあり、女王にふさわしく優雅です。
■ヤマメ VS サクラマス
サケ科に分類されるヤマメとサクラマスは全く同じ仲間である。単純に言うと河川陸封(残留)型がヤマメで、降海型がサクラマスであり両者は全く同じである。日本海側で中央に位置する石川県では陸封でヤマメになるものと、 降海してサクラマスになるものがほぼ半々であり(サクラマスの試験放流を実施している県内水面水産センターより)、また東部にいくほど陸封率が高いといわれる。
ヤマメは2年目になると秋10月頃に産卵し冬場に孵化する。そして私たちを魅了するあの美しいパーマークを発現させる。パーマークには同じものはないというからヤマメの顔と言っていい。約1年半を川あるいは川口で生活する。
サクラマスでは、降海するのが翌々年の春(4〜5月頃)である。降海するための準備段階として、スモルト化と呼ぶ銀化現象がある。 これは鱗(ウロコ)がグアニン成分と称するものにより銀白色に変化するものである。 これよりパーマークは徐々に消見する(消滅するのではないようだ)。海性食料資源確保のため行われるサクラマス放流ではスモルト化率を高めることが1つの課題になる。 降海して日本海あるいは太平洋を北上し、オホーツク海で越夏し回遊して1年後の4〜6月頃に60〜70cmの大きさになって母川に回帰し雌は3000個以上も産卵する。
同じ川に回帰するという驚愕する本能については未知の部分が沢山あるという。サクラマスはこのようにして基本的に3年で一生を終る。
ヤマメ(やまめ)においては一切スモルト化をしない。この段階で陸封型のやまめに決定する。魅惑的なパーマークを残したままの真の女王登場である。やまめの雌は大体2年で成熟し300〜500個を産卵する。数回に分けて産卵する。雄も2年成魚であるが、中には1年で(100g以下で)成熟するのもいるようである。 そして3〜4年で30cm程になり一生を終えると言われるが、尺ヤマメが存在する事実などから、もっと長生きするものも存在すると思っている。
サクラマスが回帰河川を遡上するとき残留組のやまめが数尾寄り添うという。サクラマスの雌の産卵をやまめの雄が協力するのである。同じ仲間どうしの切れない運命であろう。
■天 然 CP 養 殖
天然やまめは、降海せず陸封して大好きな清流に居座ることを選択した。普段大変に警戒心が強く、危険を察知した途端に岩陰に身を隠してしまう。 他方全くもって食欲旺盛で水や陸の昆虫など小動物のゲテモノ食いである。大きいものでは7〜8cmのヘビトンボの川虫やアブの幼虫を食う。この臆病さと貪欲さの二面性が餌釣りにしろフライやルアーにしろ釣人を虜にするのであろう。
だがすでに書いたように 産卵は秋(10月頃)であり、この頃をめがけて禁漁期に入る。釣りを楽しむためには、その前提として釣りが出来る環境(=やまめが棲む環境)を育てること、 ひとり一人釣りマナーを心得るべきで、無法な釣りは禁物である。
また、やまめに限らず、サケ科の陸封型の淡水魚は現在各地で盛んに放流されている。そのお陰で、やまめやあまごを始めとして、いわな(岩魚)、 にじます(虹鱒)、ひめます(姫鱒)などを管理水域で釣って楽しむことが出来るようになった。そして放流技術の進歩により、もっぱらの食用種とか自然に 近い野生種とか、区別して養殖できるようになっているという。
全国的に天然やまめは確実に減ってきており、これを採卵・養殖・放流で補充しようとしている のが現実と思われる。
■棲息分布区域
やまめは、上流域(時には中流域まで降下)に棲息し、そのやや上流がイワナ(岩魚)という区分が出来ている。やまめの適温が8〜10℃であり、イワナはそれより約1℃低いと言われている。しかしながら深山の渓や解禁初期の瀬は身を切る程の冷たさではある。いずれも冷水性の清流を好む。
大雑把には、やまめは東日本に分布し、あまご(天魚、甘子)が西日本に分布している。やまめは本州の日本海側全域および北海道、東北、関東、北信越に分布する。東海、近畿、四国、九州の太平洋側にはやまめに代わって、やまめと近似種のあまごが住む。 あまごは体側に赤い斑点があることで区別されるが、降海するとサツキマスである。近年「放流」が盛んであり分布地図は塗り替えられていると思われる。
--補足(2002/2/付) HP「四万十かざぐるま」のオーナーR氏からのお便りによると、高知県中部の上流域に、天然アマゴ(高知ではアメゴと 呼ぶ習慣)が棲む支流の他に、ヤマメが棲む支流もある(渓流釣師情報)とのこと。--
■人間の蛮行
やまめの天敵にはカワセミやカワガラス、ゴイサギ、イタチやテンがいる。だが一番の天敵は人間かも知れません。
私たちのチームは、やまめが消えそうな状況から、やむなく放流という手段をとった。川の流域を眺めてみると一目瞭然だ。コンクリートの堰堤や護岸、 無魚道、土石採掘汚濁、雑木林や落葉樹林伐採、工業や生活廃水たれ流し、不始末な汚水処理施設、ゴミ捨て、釣人のマナーの問題など心無い人間の蛮行により、 清流が失われやまめが絶滅する。自然が豊かであると言われる能登半島も例外でない。
誰でも放流やまめより天然やまめの方が大好きなのだが、やむを得ずに放流を開始したのが1975年。昨今の河川状況を見るにつけて、自然環境破壊へ警鐘を鳴らし、清流を保全して後世に引き継ぐため、私たちの放流がチョッピリなりと役に立っているのだろうかと自問しながらの続投である。
■what is new?
渓流の幻の魚(になりつつある)やまめを求めて全国を釣行しているファンも相当数いるようだ。 やまめは何故に私たちを惹きつけ魅了するのか。 北アルプスの黒部川の源流(標高2000〜2500メートル附近)で釣人に出会った。岩魚ではなく山女の方をターゲットと聴いて唯ただ感激した。 あの高さでは、輝くパーマークを散りばめた女王やまめとの出会いは多分なかったに違いない。それでも懲りない面々は竿を振る。
やまめの生態等に関しては、担当子がこれまでの放流活動や渓流釣りをとおして気付いたり仲間から聴いたり釣雑誌を見たりした中から、 自分なりに得た内容を雑駁に記述したものである。従って専門的に正しいと確信がもてるかと問われれば残念ながらNOである。具体的に間違いの指摘があれば喜んで訂正加筆する積りです。